カチョエペペとの二日間

 ローマの三大パスタのひとつと言われている『カチョエペペ』はチーズと胡椒だけのパスタだ。
カーチョがチーズ、ペーペが胡椒の意味だそうなので、“エ”は“&”なんだろう。
おそらく日本ではそんなにメジャーでは無いのではないかと思うのだけれど、チーズと胡椒だけでこんなに美味しい食べ物が作れるのかとビックリするパスタである。
そんな美味しい料理が、日本でメジャーにならないのにはそれなりの理由がある。

アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノも材料を絞ったシンプルなパスタだけれど、カチョエペペも負けず劣らず材料は少ない
少ないけど入手難易度は段違いに高い。
入手の難易度を上げているのはチーズの種類である。
ローマの郷土料理なので本格的に作るならペコリーノロマーノと言う羊の乳で作ったチーズが必要になるのだが、このチーズを容易に手に入る環境が日本には無いのでそこまで広まらないのだろう。※Amazonでは入手可

ペコリーノロマーノの代わりに入手の簡単なパルミジャーノ・レッジャーノなどを使っても美味しいモノは出来ると思うのだが、やはり“邪道”を進む前に“王道”を体験しておくべきだろうと言う事で、今回は会社帰りに銀座松屋の「チーズ王国」さんに寄ってペコリーノロマーノを入手した。
そしてYouTubeの調理動画を片っ端から見て、なるべく原型に近いと思われるレシピを参考に作ってみる事とした。

→カチョエペペの基本的な作り方は、たっぷりの粗挽き黒胡椒を空炒りして香りを出し、茹で汁を加えて胡椒のソースを作る。そこに茹で上がった太めのパスタと予めペースト状にしたパスタの半量程のペコリーノチーズを投入して和える、と言うモノだ。

ペコリーノロマーノは塩味の強いチーズなので、原型の郷土料理に近いレシピでは、かなり塩辛く仕上がるらしい。確かに昔ローマに行った時にバルで食べたカルボナーラはえらく塩っぱくて、大いに驚いた思い出がある。ローマの人は塩辛いのが好みなのかもしれない。
そこで、アレンジポイントとしては、塩味を抑える工夫が施される場合が多い。
そのひとつが、チーズをペコリーノロマーノだけでなく、パルミジャーノとブレンドする方法で、多くのレシピの中で採用されていた。週末の初日は、このチーズのブレンドのアイデアは使わせて頂いて、パスタは家に在ったママーの1.8mmでトライした。

結果は?…、これが久し振りの大失敗となってしまった!
チーズが上手くソースにならず、ダマになった。温度の管理がまずかった様だ。味もダメ。塩味はそれ程強く感じなかったが、美味しくは感じなかった。全く良いところが無い。ダメだ…。こりゃ。

挫けそうになりながらも、翌日リベンジに挑む。

動画をいくつも見直して一晩頭の中で反芻した結果、もっと噛み応えのあるパスタが必要と結論付けて、朝からKALDIに向かう。真ん中に穴の空いた極太2.7mmのパスタ、ブカティーニを購入した。もう一点、ペコリーノロマーノの溶かし方を変える事にした。事前にペーストにする方法は辞めて、胡椒のソースで麺を煮込んだら、火を止めて粉状のペコリーノを少量づつ加える方法を採用。茹で汁の量も少しづつ目視しながら足す事で大きな失敗を回避する作戦だ。太い麺を選んだ理由は、チーズをペコリーノロマーノだけにして、一旦本場の塩辛いソースで作って見たかったから。ソースが塩っぱくても極太の麺なら良く噛んで出てくる小麦の甘みと相殺させる事が出来る。恐らくこれが郷土料理としてのカチョエペペなんだろうと言う予想だ。
結果は?…、狙い通りにとっても塩辛いけど、ペコリーノの濃厚なソースがブロンズの麺に良く絡んだ美味しいパスタが出来上がった!いやあ、嬉しい。一応リベンジ成功って事で、これが早めの昼ご飯。

記憶が鮮明なうちに、少しだけ塩っぱい対策のアレンジをしてみようと、その日のうちにもう一回作ったのが下のレシピである。妻との夕食のテーブルにあげて見たところ、非常に好評だった。
少ない材料ではあるが、それ故に手順と火入れがとても大事なパスタだと思う。失敗すると目も当てられない。でも、胡椒を調味料では無く具材としてタップリと使い、そしてたっぷりのペコリーノロマーノを使う事で、上手くいけば、素晴らしい香りと濃厚な旨味を味わう事ができる。
これをベースに我が家のカチョエペペに育てていこう。

◆今回のポイント
・材料を揃えること。
・胡椒は具材としてたっぷり使うこと。
・チーズを投入する時は火をゴク弱火で少しづつ。
・下準備の削り手間を惜しまない。
・甘味のある出汁を使う。

◯材料(一人前)

ペコリーノロマーノ 30g+α(追いペコリーノ分)
胡椒(ホール)4g
パスタ(ブカティーニ)70g
バター15g
(野菜出汁100cc(タマネギを煮た出汁))

◯調理
下拵え
・胡椒を引く。
・ペコリーノチーズを削る。
・バターを切っておく
・玉ねぎを煮て出汁をとる。※暫定

調理
・パスタを茹でる。
お湯1lに対して塩10g(1%)あまり強火にせず、ポコポコする程度。
フライパンに移してから2分程煮込むので、少し硬いくらいで良い。が、KALDIで購入したブカティーニの場合は11分の表示時間通りで良かった。

・茹で上がり5分前になったら、胡椒をフライパンで空炒りする。
香りが立ったらやめ。焦がすくらいなら足りない方が良い。
・水(あれば野菜出汁)100ccを加えて、パスタの茹で上がり迄弱火で加熱しておく。

・パスタが茹で上がったら、フライパンの火を中火にして、パスタをトングで投入。茹で汁は捨てない。

・良く和えて、パスタに胡椒のソースを吸わせながら煮込む。(リゾッターレ)
麺の硬さを確認しながら、茹で汁が足りなくなったら足しつつ煮込む。

・お好みの硬さまでもう少しの所で、一度火を止める。ここからチーズを加えて行くが、この時点でフライパンにソースが大さじ2くらいが良いと思う。
削ったペコリーノロマーノを少量づつ加えながら、手早く和えていく。様子を見て水分が足りなくなったら茹で汁を少量加え、ゴク弱火で加熱しながら、チーズを投入して良く和える。これを繰り返して好みの濃度のチーズに仕上げていく。あと一回投入したらチーズが無くなる時に、バターを投入。よく溶かし切ったら、最後のチーズを加えて、良く和えたら皿に盛り付け。

・盛り付けて、ペコリーノを削りかけ、胡椒を振ったら完成!